厨房設備は、内装と並ぶ開業資金の大物です。しかも一度入れたら簡単には替えられず、開業資金の記事で書いた通り、減価償却費として毎月の固定負担になり続けます。この記事では、設備を「何から・どう揃えるか」を現場目線で整理します。
機器リストはメニューから作る
設備選びの出発点はカタログではなく、メニューです。看板商品と品揃えが決まれば、必要な火力・冷機・調理機器は自動的に決まります。逆にメニューが固まる前に設備を買うと、「使わない機械が場所だけ取っている厨房」ができあがります。
リストができたら、物件の図面に一つずつ落とし込み、調理の動線を確認してください。ここを飛ばすと、営業が始まってから毎日ぶつかり合う厨房になります。
機器の「能力」はピーク時間帯から決める
メニューから決まるのは、機器の「種類」までです。もうひとつ大事な検討が残っています。その機器の処理能力が、ピーク時間帯の注文量に見合っているかです。
手順はこうです。まず売上予測で組んだ時間帯別の客数から、1日で最も忙しいピーク帯を取り出します。次に、その1時間に「どのメニューが何皿出るか」というメニュー別の販売構成を想定します。看板商品が注文の3割を占めるなら、ピーク1時間の注文数×3割が、その機器がさばくべき量です。これを機器ごとに割り出し、カタログの処理能力と突き合わせます。オーブンなら一度に何枚焼けて1回何分か、フライヤーなら同時に何食分揚がるか、という具合です。
このとき、ピーク想定ぎりぎりの能力で選ばないこと。想定を超える日は必ず来ますし、機器は経年で能力が落ちます。ある程度の余裕を見込んでおかないと、ピークで調理が詰まり、提供が遅れ、回転が落ちる。せっかくの満席が売上に変わらない店になります。逆に過剰な能力は投資と光熱費の無駄なので、「ピークに余裕を持って耐えられる最小限」が選定の物差しです。
冷蔵・冷凍・ストックの「容量」も販売数から逆算する
加熱機器の「能力」と並んで、見落とされがちなのが保管設備の「容量」です。冷蔵庫・冷凍庫・ストックスペースの大きさは、感覚で「これくらい」と決めるものではありません。1日のメニュー別販売数の想定に、レシピごとの食材使用量を掛ければ、1日に必要な食材の量がおおよそ算出できます。そこに何日分をストックするかを掛ければ、冷蔵・冷凍・常温それぞれで必要な保管容量が決まります。
ここで順番が重要になります。容量が足りなければ、仕入れ頻度を上げて対応するか、より大きな設備を置くしかありません。しかし後者は、厨房の限られたスペースを圧迫します。だからこそ、厨房図面を引く前に、この保管容量の想定を先に済ませておく必要があります。図面を引いてから「冷凍庫が入りきらない」と気づくと、調理スペースや客席を削る羽目になります。物件選びの記事で書いた「図面へすべて落とし込む」は、保管設備の容量まで含めての話なのです。
新品・中古・リースの使い分け
すべて新品で揃える必要はありません。現場の使い分けはこうです。
- 新品で買うもの: 店の心臓部。看板商品に直結する加熱機器や、故障が営業停止に直結する冷蔵・冷凍のコア設備
- 中古で十分なもの: シンク・作業台・棚・ラックなどのステンレス什器。構造が単純で壊れにくく、新品との価格差が大きい
- リースを検討するもの: 製氷機や食洗機などの高額機器。初期資金を温存できる反面、総支払額は割高になるため、資金繰りとの相談
中古を買うときの注意点
中古で気をつけるのは、モーターやコンプレッサーを積んだ機器です。冷蔵庫・冷凍庫・製氷機は年式が古いほど故障リスクと電気代が跳ね上がります。年式・使用年数・保証の有無を必ず確認し、保証のない格安品は「営業中に止まったら何日休むことになるか」まで考えてから決めてください。真夏に冷蔵庫が止まった店の悲惨さは、経験した者にしか分かりません。
見積り前に確認する「建物側」の条件
設備選びで意外に多い失敗が、機器ではなく建物側の確認漏れです。特にビルイン物件では次の4点を契約前に確認してください。
- 電気容量とガス容量: 足りなければ増設工事。ビルによっては増設自体ができない
- 給排気: 排気ダクトの経路と能力。焼き物・揚げ物主体の店は特に重要
- グリストラップと排水: 位置と容量。後から動かせない
- 搬入経路: エレベーターや階段の幅で、入れたい機器が物理的に入らないことがある
まとめ|設備は「メニューの従属変数」
設備は主役ではありません。メニューが決まり、図面に動線を引き、そのうえで新品・中古・リースを使い分ける。投資総額は回収5〜8年の物差しで必ず検算してください。立派な厨房を作ることが目的ではなく、看板商品を安定して出し続けられる厨房を、身の丈の投資で作ることが目的です。

